約 1,058,950 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3246.html
「もうっ!なんでこんなことに!」 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは苛立っていた。 昨日のサモン・サーヴァントの儀式で現れたのが中年もいい所の軍人、 しかし元は大帝国の爵位持ちの高級将校だったというその男が現れた事が発端だった 当然使い魔として扱うわけにもいかず、如何しようかと学院長達と悩んでいた所、 「御付」と言う形でならばルイズに仕えても良いと「彼」が主張した為、そのように扱うことになっていた。 そこまでは良かった。 何しろメイジではないとはいえ、「元」とはいえ騎兵少将の男爵に忠を誓われると言うのは、ルイズとて悪い気分ではない。 下手な動物を使い魔にするより余程名誉な事だろう。 伯爵家の娘と言う事で『姫』と呼ばれる事は少しむず痒い気もするが、悪い気はしないし さらに身の回りの世話を命じるまでもなく、全ての雑事の手筈を整えるなど能力的にも満足。 これならば思い通りにならない面がある事も許容しよう。と、納得しかけていたところに事件が起きた。 ルイズになんの断りも無く、彼は決闘に応じてしまったのだ。 「ああ、余り怒られては美容によろしくありません。姫」 ヴェストリの広場に向かって歩くルイズの一歩後方を男が進言する。 「軽口を叩いている場合じゃないでしょクラウス! 何があったかは知らないけど、メイジじゃない貴方が一対一の決闘でギーシュに勝てるわけ無いでしょ! 謝罪してきなさい!今すぐに!」 「これは異な事を申される。これから行うのは単なる軍事教練に過ぎませぬ。 聞けばあのギーシュ殿はこの国の由緒ある軍人の家系。後進を教育するのも老兵の役割と言うものです」 片目を閉じて微笑みながらクラウス・フォン・メレンティンは主人の癇癪に応じた。 彼が仕えた東方辺境姫に対して行われたものと変わらぬ、諧謔をこめた軽口。 未だ諧謔の意味を解さぬルイズには単なる反抗にしか見えなかったが。 「―――ッ!なら勝手にしなさい!!」 「はい。申し訳ありませんが、しばらく私のわがままに御付き合いください」 騎兵将校としての勇気ならば十二分に持ち合わせているが、メレンティンとて決闘などを好む体質ではない。 ならばなぜギーシュの決闘に応じたのかと言えば、単に状況のおかげに過ぎない。 ギーシュが落とした小瓶を拾いそれが原因でとある事件が発生した。 その責任をギーシュがメレンティンに押し付けようとする。 気の利かなかった事に謝罪し、メレンティンがその場から引き下がる。 それだけで解決するはずの出来事はしかし、ギーシュの放った一言で発火した。 「―――ああ、あのゼロのルイズの使い魔殿か」 彼の一言をメレンティンはルイズには伝えなかった。伝える必要も感じなかった。 ただ、主人に付いている不名誉な称号だけは返上しておかねばならない。 なによりも、メレンティン自身のために。 故に、「軍事教練」を名目として決闘に応じた。ただそれだけの話である。 「クラウス」 「はい。姫」 「……やるからには勝ちなさいよ」 「はい。おまかせください」 命は下された。ならば後は進むだけである。 拗ねた様に顔を逸らしたままの主人に、 帝国 式の敬礼を行いメレンティンは前進を開始した 皇国の守護者より、ユーリア殿下の御養育係にして筆頭御付武官クラウス・フォン・メレンティンを召喚
https://w.atwiki.jp/nolnol/pages/4957.html
陰陽師 攻撃術 式神召喚・参 目録 召喚術・伍 必要気合 1120 必要アイテム 呪符 ウェイト 2 効果時間 式神が倒れるまで 発動準備 なし 使用場所 戦闘専用 効果 ランク3の式神を召喚し、ともに戦わせる。 特徴 憑依攻撃(敵単体に若干ダメージと確実に呪い。ウェイト?) 憑依回復(召喚者を回復。ウェイト?) 憑依付与(召喚者にランダムで付与。ウェイト?)が使える 敵の攻撃の対象になる その他情報 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4605.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 目を覚ました時、彼は清潔に整えられた一室のベッドに横たわっていた。彼は傷づいていた。深い火傷と、切り傷と、煙を吸って肺を焦がしていたのだ。 しかし、今目を覚ました彼は、自分の体にそのような瑕疵がないことに気付いた。飛び起きる彼はさらに、自分が鎧を脱いでいる事に気付く。 「……此処は……どこだ…」 仕切りの向こうから人が入ってきた。少女一人と、頭髪の薄くなった男性が一人。 「目を覚ましたようですね」 男は彼に話しかけてくる。 「ここはトリステイン魔法学院。貴方はこのミス・ヴァリエールにサモン・サーヴァントでよび出されたのです」 時間は遡る。 トリステイン魔法学院、春の使い魔召喚の儀式。それは二年次に進級する学生達が使い魔を召喚、契約し、自身の魔法属性と専門課程を決める大事な儀式である。 しかし彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、既に使い魔召喚の口上を数十回繰り返していたが、辺りには爆発によって地面に穿たれたクレーターが散見されるばかりで、使い魔に相応しいような生き物は影も見当たらなかった。 「ゼロのルイズは使い魔も召喚できないのか!」 「しょうがないよなぁ、だってゼロのルイズだしさー」 ギャラリーの心無い声にルイズの心は張り裂けそうだった。 杖を握る指が震える。忸怩とした気持ちと絶望が顔を覆う。 生徒たちを見守る役目を受けた教師コルベールは、ルイズを囲む生徒たちを下がらせ、ルイズの傍に立った。 「ミス・ヴァリエール。気負ってはいけませんよ」 「ミスタ・コルベール……」 己の無能に落胆するルイズに、あくまでも優しく、しかし強い心を込めてコルベールは説く。 「使い魔は、主人の半身ともなる大事な友です。そんなにしょげていては、やってきてくれませんよ」 「でも…私は…」 「無心に願いなさい。さすればきっと、始祖ブリミルの導きで、貴方にふさわしい使い魔を呼び寄せることができるはずです」 コルベールの説得にルイズは呼吸を整え、再び杖を掲げた。 「宇宙の果てのどこかにいる……わたしの僕よ。神聖で美しく、そして、強 力な使い魔よ。わたしは心より求め……訴えるわ。我が導きに……答えなさいッ!!」 ルイズは願った。自分にも使い魔を、誰にも侮られない使い魔をください。魔法が使えない私にせめて胸を張れるような使い魔を……。 振り込んだ杖の先の地面が、光を放って爆発する。巻き上がる土煙は、これまでの失敗よりもずっと激しく立ち昇り、広場を包んだ。 「ケホ、ケホ……つ、使い魔は……?」 土煙が収まらないまま、ルイズとコルベールは爆発の中心を覗く。カチャリ、と金属が擦れるような音がする。 徐々に収まっていく土煙の中に倒れていた、一人の男。煤に汚れた金髪と肌、精巧さと合理性を合わせたような見事な鎧をつけた意丈夫の男が、そこに倒れていたのだ。 「私達はひとまず、貴方の体の怪我や火傷を治すために、学院の医療室に運ばせていただきました」 「……」 男は言葉もない。目を芝立たせ、コルベールの説明を聞いていた。 「貴方の意思を聞かずに、コンクラクト・サーヴァントを行わせたことについては、ミス・ヴァリエールに責任はありません。ひとえに教師として私が指示した事です」 コルベールは男の左手に記されたルーンを指す。 「これは使い魔として契約したものに記される使い魔のルーンです。使い魔に関する詳しい話は、そこのミス・ヴァリエール本人に聞くのが良いでしょう」 話を振られたルイズは、コルベールと男の顔を交互に見るが、何を口出していいのかわからず、顔を背けてしまった。 「ひとまず此処は引き払いましょう。身に着けていたものはミス・ヴァリエールの部屋に送らせて頂きました。ではミス・ヴァリエール。私はこれで」 男はルイズにつれられてルイズの部屋に移った。部屋の隅に男が身に着けていた鎧や装飾品、そして「剣の抜かれた鞘」が積まれていた。 男は鞘を手に取りルイズに聞いた。 「これに収まる剣があったはずなんだが、知らないか」 「知らないわよ。あんたが召喚された時、最初から剣なんで入ってなかったわ。あんたが身に着けていたものは、そこにおいてあるので全部よ」 ベッドに腰掛け、男をまじまじと見るルイズ。 「使い魔の契約もしちゃったし、今日からあんたは私の使い魔よまず……」 「月が二つある……」 話を切るように男が呟く。男は窓から見える大小の月を見ていた。 「どうして月が二つあるんだ?変じゃないか」 「何言ってるのよ。月は二つに決まってるじゃない」 そう答えると、男の顔色が変わったのがルイズにも判った。どこか険しい色を含んでいる。 「グラン・タイユという地名を知っているか」 「グラン・タイユ?知らないわね。……何、月も見えないような田舎から来たって言うの?」 「ナ国は?ヤーデ伯というのに聞き覚えは?」 「なにそれ?知らないわ」 ルイズが質問に答える度に、男の顔に何か濃いものが挿していく。 「……アニマと術がわかるか?」 「アニマって何?術って魔法の事でしょ。あんた一体どれだけ田舎者よ」 質問が途切れた。男は座り込んでうつむいてしまったのだ。 「……ちょっと、あんたさっきから質問ばっかりして。なんなのよ……」 ルイズにしてもたまったものでなかった。やっと呼び出した使い魔は、傷だらけの平民で、傷を治してやったら、今度はよく分からないことを色々と聞いてくるのだから。 「……ルイズ、と言ったな、お前」 「お前とは主人に対して失礼ね。ルイズ様、とかご主人様、とかいえないの」 「俺はお前がどんな人間か判らないからな。敬語をつかうべきかどうか知らないね」 とりあえず、と、男は言葉を一旦切る。 「俺は随分と遠くにやってきてしまったらしい。術もない、アニマも知らない。そんな場所があるなんてな……」 「……はぁ、どうしてこんな田舎者を使い魔にさせたのでしょうか。始祖とコルベール先生を恨みます」 ルイズと男はお互いに別々の理由で、どこか悲嘆にくれていたが、ルイズは改めて向き直して、男に話しかけた。 「まぁお互い色々と思うところはあるけど、あんたは、私の、使い魔になったんだから。やるべき事はやってもらわなくちゃいけないのよ」 男もルイズに顔を向けて話を聞く。 「じゃあ、何をすればいいんだ。言っておくけど俺は何もできないぞ」 「使い魔はまず、主人と感覚の共有ができるはずなんだけど……無理みたいね」 みたいだな、と男は相槌。 「次に、使い魔は主人に望むものを見つけてくるのよ。秘薬とかね」 「薬草の類なら知らなくもないが、あんまり当てになりそうにないな」 そう、とルイズが相槌。 「最後に使い魔は主人の身を守るんだけど……鎧と鞘着けてたんだから、腕の覚えはあるんでしょ」 「まぁな。……そうでなければ今まで生きていなかっただろうしな」 「……まぁいいわ。とりあえず私の護衛兼、小間使いとして置いてあげる。ありがたく思いなさい」 ひとまず話すことは話したのでルイズは気持ちの整理がつき始めていた。もう使い魔として契約してしまったのだから、こいつを使いこなさなければならないと、そう腹に決め始めていた。 「……元の場所に帰る方法はないのか?」 「ないわ。サモン・サーヴァントは呼び出すだけ。そもそも人間が召喚されるなんて、今まで聞いたことも無いし」 「でも俺は此処に呼び出された。しかも俺が気を失っている間に、こんなものまでつけて」 左手の甲をルイズに見えるように男は掲げた。 「ぐ……仕方なかったのよ!使い魔召喚を失敗したら、私はここを追い出されてしまうわ。領地に戻されても、お母様やお父様に合わす顔もないし……」 顔を背けてぽつぽつと声にならない呟きが漏れていくルイズ。 「……本当に帰れないのか」 「ええ……やっぱり帰りたいわよね」 「そうだな。向こうにはたくさん、遣り残した事があるんだ」 男の眼は静かに前を見ている。ルイズは少しだけ、そんな男がまぶしい。 「しかし帰れないんじゃ仕方が無いな…。使い魔、やればいいんだろ」 「……そうよ。やってもらわなくちゃ、困るわ」 あくまで男に対し主人として命令する立場に立ちたいルイズはしかし、男が身の処遇に納得してくれたことに安堵したのだった。 「……とりあえず、今日はもう遅いから寝るわ」 ベッドの上で服を脱いで下着姿になったルイズは、男に服を投げつける。 「洗濯物。明日洗っておいて頂戴。後、朝になったら起こしてくれる?」 男は目の前に投げつけられたルイズの服に唖然としていた。 「男に自分の服を洗わせて恥ずかしくないのか?」 「だってあんたは使い魔だもの」 おやすみ、とベッドにもぐりこんだルイズは、気付いたように男を見て、 「そういえば、名前を聞いてなかったわね」 「俺も教えた覚えが無いな」 床に毛布を敷いて寝床を作っていた男も答えた。 「名前は?田舎者でも名前はあるんでしょう?」 ごろりと横になったまま、 「名前か……」 男は自らを名乗った。 「俺の名前は、ギュスターヴ」 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8190.html
前ページ次ページゼロの賢王 トリステイン魔法学院。 その中庭で、ドカーンと威勢のいい音が鳴り響いた。 これで何度目だろう・・・。 同じ制服を着た少年少女たちは、1人の少女を見ながらそう思っていた。 ピンクブロンドの髪を振り乱し、華奢な体をふるふると震わせる少女。 彼女の名はルイズと言った。 ルイズは何とか自分を落ち着かせると、再び目を閉じて、杖を構えた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 そう静かに、そして確かに呪文を唱える。 「五つの力を司るペンタゴン」 これは召喚魔法。 彼女のパートナーとなる使い魔をこの場に呼び寄せる呪文である。 「我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ」 少女は力を込めて杖を振った。 その直後、目の前で大爆発が起きた。 大量の土煙が舞い上がり、その場には大きなクレーターまで出来ていた。 周りで見学していたルイズの同級生たちは誰もが、 「『ゼロのルイズ』がまた失敗した」 そう思い、ルイズを嗤おうとした。 その時、立ち込める煙の中に人影が現れた。 少女は目を見開く。 もうもうとした土煙が晴れると、そこには金色の長い髪の男が倒れていた。 「・・・え?」 ルイズは愕然とした。 ドラゴンやグリフォンなどといった高等な生物まではいかなくとも、 せめて使い魔らしい使い魔を呼びたかった。 だが、目の前にいるのは人間。 しかもどう見ても平民である。 それに気付いてから同級生たちの嘲笑の声が辺りに響き渡るのに時間は掛からなかった。 「ハーッハッハッハハ!!!おい、見ろよ。あれ平民だぜ!?」 「やっぱり『ゼロのルイズ』だな!!アハハハハハハ」 「ひ・・・ひ・・・も、もうダメ・・・笑い過ぎで、腹が・・・!!」 ルイズは頭の中が真っ白になった。 暫く呆然としていると倒れていた男がピクリと動く。 「んん・・・」 男は頭を押さえながらよろよろと立ち上がった。 そして、薄く開いた目で辺りをキョロキョロと見回している。 その顔もこれまた野暮ったい顔である。 年齢もこの召喚テストを取り仕切っているコルベールと変わらない様に見える。 ルイズは思わず頭を抱えていたが、すぐにピンクブロンドの髪をひるがえして、 側でルイズと同じ様に呆然としているコルベールへと向き直った。 「ミスタ・コルベール!」 「・・・あ、な、なにかな、ミス・ヴァリエール?」 「あの・・・も、もう一度!もう一度召喚させて下さい!!」 「それは出来ない」 コルベールは首を振って否定の意を示した。 「使い魔の召喚は神聖な儀式だ。一度呼び出した使い魔を変更することは出来ない」 「でも、アレは平民です!使い魔じゃありません!!」 「例え平民であっても、召喚された以上は君の使い魔だ。君は責任を持って彼と契約する義務がある」 「で、でも!!」 ルイズは必死に食い下がるが、コルベールは再び首を振ってそれを拒否した。 「さあ、早く『コントラクト・サーヴァント』をしたまえ」 「し、しかし!!」 そうは言いながらもルイズは分かっていた。 『サモン・サーヴァント』が成功したのは、今の自分にとっては奇跡的なことであり、 今が最後のチャンスなんだということを。 正直、ルイズは再び『サモン・サーヴァント』を成功させる自信が無かった。 「ちょっといいか?」 突如聞こえた言葉がルイズの思考を遮る。 気が付くと、男が二人の側まで来ていた。 「ここは一体何処だ?俺は一体どうなった?さっきまで確かに船の上にいたんだがよぉ・・・」 ルイズは横目でジーっと男の顔を見る。 そしてハァとため息をつくと、覚悟を決めたかの様に男へと向き直った。 「あんた、名前は?」 そう言うと、ルイズはキッと男を睨み付ける。 頭で納得出来ても、やはり心では納得出来ていないのだ。 男はいきなり睨み付けられて少しムッとした顔になった。 「お嬢ちゃん。人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのが年上に対する礼儀って奴だぜ?」 「いいから名前!!」 「だから、まずそっちが名乗れって・・・」 「名前!!!!」 「・・・・・・」 男は先程のルイズの様にため息をつくと、やれやれと言った感じで答えた。 「・・・ポロンだ」 「ポロン?変な名前ね。いいわ、ポロン。ちょっと屈みなさい」 そう言うとルイズは人差し指をポロンに向けて、下へと曲げた。 「ハァ?何で俺がいきなり会った見ず知らずのガキに名前呼び捨てにされて、 更に言われた通りにそんなことしなきゃならねえんだ?」 「ガキ・・・?(ピキッ)・・・いいから早くしなさい」 「ったくよぉ」 ポロンはこれ以上言っても無駄だと思い、渋々身を屈めた。 ルイズの顔が近くなる。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 (意外と可愛い顔しているな) ルイズの顔を間近で見て、素直にポロンはそう思った。 だが、ポロンとて愛する妻がいる身であり、血が繋がってはいないもののたくさんの子供もいる。 ポロンがルイズに感じた可愛さは、親が子に思うそれと同質のものであった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ!」 それに見惚れていたというわけではないが、ルイズの突然の行動にポロンは何も出来なかった。 重なる唇。 流石のポロンもサクヤや子供たち以外と口づけを交わすのはかなり久し振りであり、少し気恥ずかしくなる。 ルイズの体がポロンから離れた。 「・・・終わりました」 それだけ言うと、ルイズの顔は急に赤くなりポロンから目を背けた。 可愛らしいところもあるんだな、と思った瞬間、ポロンの左手に激痛が走った。 「何!?」 毒でも仕込まれたのか?と一瞬勘ぐったが、痛みはすぐに治まった。 代わりに左手には見たことも無い文字で印が刻まれていた。 「何だ・・・こりゃあ?」 「それは使い魔のルーンよ」 「使い魔の、ルーン?・・・つーか、使い魔って何だ?」 「使い魔は使い魔よ。ポロン、今日からあなたは私の使い魔となるのよ」 「ハァ!?何だそりゃ!?」 ポロンは開いた口が塞がらないという感じで言った。 するとコルベールが二人の間へ入った。 「ミスタ・・・そのことは私から説明しましょう」 コルベールから今の事情について簡単に説明した。 今は使い魔召喚の試験を行っているということ。 ミス・ヴァリエール・・・つまりそこの少女がポロンを召喚したということ。 彼女はこの試験に合格出来なければ留年となること。 故にポロンと使い魔の契約を交わしたということ。 「何じゃそりゃあ!?俺は使い魔なんてやらねえぞ!!」 それを聞くとポロンは全力で拒否の意を表明した。 いきなり見知らぬ土地へ連れて来られて、更に見知らぬ子供に口づけされて、 それで今度はその子供の使い魔となれ。と言われているのだ。 拒否しない方がおかしい。 「ハァ?何言ってんの?あんたみたいな平民に拒否権なんて無いわよ」 「ああ?あんだってー?」 「平民が貴族に従うのは当然じゃない!大人しく使い魔になりなさい」 「今のでカチンと来た!!絶対に嫌だね!!」 ポロンが頑なに拒否していると、またクスクスと笑い声が聞こえる。 「おい、『ゼロのルイズ』が平民に拒否られてるぞ!」 「アハハハハ、自分の使い魔に拒否られるなんて流石は『ゼロのルイズ』だな!!」 「ていうか、あれって使い魔なの?ただの平民だろー?」 その声は、事情を知らないポロンさえも不快な気分にさせた。 『ゼロのルイズ』が何を意味しているかは分からないが、 目の前の少女が馬鹿にされている。というのは伝わって来る。 ふと見ると、ルイズはわなわなと震え、目には涙を浮かべていた。 ポロンは「ふむ」と顎に手をやると、すぐに軽く頷いた。 「おい」 「・・・何よ?」 「使い魔になってやってもいいぜ」 「へ?で、でもあんたさっき絶対に嫌だって・・・」 「気が変わった。これからよろしくな、えーっと・・・ルイズだっけ?」 「な、何で私の名前を?」 「さっきから周りのガキ共が『ルイズ』って言ってたからな。お前のことだろ?」 「ええ・・・」 『ゼロの』という部分を敢えて言わないのはポロンの優しさだった。 本来のポロンは子供にはとても優しい人間である。 『ゼロ』が示す意味については気になる部分もあったが、それが彼女にとって触れられたくないものである。 ということはすぐに察せられたので『ルイズ』とだけ言ったのだ。 「ふ、フン!最初から素直に使い魔になってれば良かったのよ」 「素直じゃないのはお互い様でね」 「な、何よ!」 二人の様子を見てコルベールは安心したように頷くと、ふと何かを思い出してポロンの元へ駆け寄った。 「すみませんミスタ、その左手のルーンを見せていただいてもよろしいですか?」 「あん?これか?別にいいけど・・・」 「ふむ、珍しいルーンだ。有難う」 コルベールは素早くポロンのルーンをスケッチすると、手をパンパンと叩いて皆の注目を集める。 「では皆さん、これから部屋へ戻って今呼び出した使い魔との交流を深めて下さい」 コルベールの号令とともに他の生徒たちもぞろぞろと部屋へ戻って行く。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ、フライはおろか、レビテーションさえまともにできないんだぜ!」 去り際にそんなことを言いながら飛んでいく生徒たちを見てポロンは驚いた。 その様子を見て、ルイズは「魔法を知らないなんて何処の田舎者よ」と呆れていたが、 ポロンが驚いていたのは飛べることではなかった。 (何で飛べるんだ!?世界から呪文は失われたはずなのに・・・) 思わずポロンは立ち尽くしていた。 ルイズはそんなポロンに気付かず、その場に置いて先へ進んでしまった。 ポロンは暫く呆然としていたが、ハッと気が付くとすぐに地面へ手を向けた。 「メラ・・・!」 すると、懐かしい感触とともに手の平から火の玉が放たれた。 火の玉は地面へ着弾すると、そのままパチパチと燃えている。 (呪文が・・・使える・・・だと!?) これは絶対に有り得ないことであった。 『失われし日』を境に呪文の消失は全世界に及んでいた。 魔力の有無に関わらず、全世界で呪文を使用することが出来なかったのだ。 それが使用出来るというのは、すなわちここが自分たちが知る世界では無い、ということである。 「・・・・・・」 ポロンはごくりと唾を飲み込むと、もう一度呪文を唱えた。 「メラゾーマ!!」 しかし、今度は何も起きなかった。 (魔力は足りている。呪文を忘れた?いや、違う。そういう感じじゃねえな・・・。急に使えるようになったから、心と体が慣れていないのか?そんな感じだな・・・) 「ちょっとポロン!!何で付いてきていないのよ!!」 ルイズが急いでポロンの元へ駆けつける。 ポロンはルイズの顔を見た。 ルイズは怒りながらも何処か不安そうな顔をしていた。 (そうか・・・俺がお前を置いてどっかへ行っちまったとか思ったんだな) 「ああ・・・すまねえな」 そう言うと、ポロンは軽く頭を下げた。 「ふ、フン。はぐれるんじゃないわよ!・・・ほら私の部屋へ案内するから。今度は一緒に付いて来るのよ?いい、離れないでね?」 ポロンは笑いながら頷くと、ルイズの後を追って歩き始めた。 前ページ次ページゼロの賢王
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2024.html
「わあ…綺麗ですね、キラキラしてる」 シエスタがラグドリアン湖を見下ろして呟いた。 丘の上から見たラグドリアン湖は、陽光を反射し、ガラス粉をまいたようにきらりきらりと輝いている。 以前シルフィードの背から見た時よりも、ずっと綺麗な気がした。 シエスタ達は竜車を使ってラグドリアン湖にまでやってきた。 竜の力は凄まじい物で、今までシエスタが操った馬とは比べものにならないパワーとスピードを出して、籠を引いていた。 それなのに、道中は音も振動もあまり気にならない、よほど質の高い籠なのだろう。 モンモランシーとシエスタは、つくづくラ・ヴァリエール家の力を思い知らされた気分だった。 水辺に近づくと、竜車はゆっくりと動きを止めた。 少し間をおいて御者が扉をノックし、静かに車の扉を開かれた。 カリーヌが「行きましょう」と呟いて馬車を降り、モンモランシーが降り、シエスタが最後に降りた。 ちらりと御者の顔を覗くと、なるほどゴーレムというのも納得がいく、近くでみるとその顔は「肌色」ではなく「陶器に塗りつけたような肌色」をしているのだ。 ゴーレムはシエスタが降りたのを確認すると、扉を閉めて御者の席に戻る。 シエスタは「へー」と呟いて一人感心していた。 「間近で見ると、本当に綺麗な湖ですね……青く、深く澄んでいる湖なんて、見るのは初めてです」 シエスタが湖面に手を当てて、水を手ですくい取る。 手に絡みつく水の感触は、何か神秘的な力が籠もっているように思えた。 「この湖に来るのは何年ぶりかしら、園遊会以来だから…三年前…ですわね」 カリーヌは湖面を見つめ、懐かしそうに目を細める。 三年前、ラグドリアン湖で園遊会が開かれた、それは太后マリアンヌの誕生日を祝うためのもので、各国の重鎮、高名な貴族達が招かれた盛大なものだった。 噂では、女王アンリエッタとウェールズ皇太子が出会ったのも、その園遊会だったと囁かれている。 あの時、ルイズが何をしていたのか、カリーヌはよく覚えていた。 園遊会の夜アンリエッタに呼ばれ、遊び相手を務めていたルイズ。 実際にはアンリエッタが羽を伸ばすため、影武者として呼ばれていたのだと何となく気づいていた。 魔法が使えないと言われていたルイズが、唯一心を開いていた遊び相手、それが当時のアンリエッタだった。 以前、太后マリアンヌはカリーヌ・デジレに、個人的に礼を言われたことがある。 ルイズは、王女として生まれ、「お飾り」と「カリスマ」の板挟みにあっていたアンリエッタの心の支えになってくれたと。 あの園遊会の日、何年ぶりかで再開したルイズとアンリエッタの、子供の頃と変わらぬ微笑みが思い浮かぶ。 カリーヌは過去に思いを馳せ、静かに湖面を見つめていた。 無言で湖面を見つめているカリーヌの隣で、モンモランシーもまた、じっと湖面を見つめていた。 だが、なにか気になることがあるのか、首をひねって「うーん…」と小さく唸る。 「どうしたんですか?」 シエスタが訪ねると、モンモランシーは湖面を見つめたまま答える。 「ヘンね…。 ラグドリアン湖の水位があがってるわ。岸辺はもっと、ずっと向こうだったはずよ」 「ほんとですか?」 「ええ。ほら見て。あそこに屋根が出てる。村が飲まれてしまったみたいね」 モンモランシーが指差す先には、藁葺きの屋根が見えた。 シエスタが湖の中をまじまじと見つめる、すると澄んだ水面の下に家らしき建物が沈んでいることに気づいた。 モンモランシーは波打ち際に近づき、指先で水面に触れた。 目を閉じてしばらくしすると、不意に立ち上がり、困ったように首をかしげた。 「あの噂通りよ、水の精霊はずいぶん怒っているみたい」 「今のは?」 シエスタが問うと、モンモランシーは右手の人差し指をピンと立ててシエスタに見せつけた。 「わたしは『水』の使い手。香水のモンモランシーよ。前にも言ったとおり、古い盟約で結ばれているトリステイン王家と水の精霊……その交渉役をモンモランシ家が代々努めてたの。水に触れれば感情が流れ込んでくるわ」 「へえー…」 シエスタが身をかがめて、水面に手を触れる。 「あ、波紋は止めておいた方がいいわ、水の精霊にどんな影響があるかわからないもの」 「あっ。そうですね。すみません…」 シエスタが慌てて手を引っ込めて謝る、モンモランシーはシエスタの仕草にくすりと笑って、再度湖面を見つめた。 不意に、湖面を見つめていたカリーヌが後ろを振り向く。 木の陰から三人を見つめている者が、カリーヌの視線に射竦められびくりと体を震わせた。 だが、カリーヌも殺気を感じたわけではないので、興味なさそうに湖面へと視線を戻した。 それに安堵したのか、木の陰にいた初老の農夫は、意を決して三人に声をかけた。 「もし、貴族のご婦人様方でございますか」 シエスタとモンモランシーが振り向くと、初老の農夫は、困ったような顔で一行を見つめていた。 「そうだけど…何かしら?」 モンモランシーが尋ねると、農夫は地面に膝を突いて、手に持った帽子を足下に置いた。 「水の精霊との交渉に参られたかたがたで? でしたら、はやいとこ、この水をなんとかして欲しいもんで…」 一行が顔を見合わせる。 困ったような口ぶりからすると、この農夫は湖に沈んでしまった村の住人だと想像できる。 「わたしたちは、その……」 この大変な時期に、秘薬の元となる、水の精霊の涙を取りに来たとは言いづらい。 モンモランシーが口ごもりそうになったところで、カリーヌがすっと前に出た。 「残念ながら王宮からの命を受けた者ではありません。水の精霊を怒らせた者がいると聞きましたが、知っていることを離して頂けますか」 カリーヌの言葉は丁寧さの中にも、威圧感を感じる。 農夫はカクカクと首を縦に振り、ラグドリアン湖で起こったことを話した。 農夫の話では、ラグドリアン湖の増水が始まったのは二年前だという。 船着き場が沈んでから、湖面に近かった寺院、畑、住居が沈むのはすぐだったと言う。 「領主はこのことを知ってるの?」 モンモランシーが聞くと、涙ながらに農夫が答える。 「領主さまも女王さまも、今はアルビオンとの戦争にかかりっきりでごぜえます。こんな辺境の村など相手にもしてくれませんわい。畑を取られたわしらが、どんなに苦しいのか想像もつかんのでしょうな……」 よよよと農夫が泣き崩れたが、涙を流しているようには見えない。 どちらかというと愚痴をこぼすようなしゃべり方で、今度は水の精霊への恨み言を言い始めた。 「水の精霊が人間に悪さをしてるんですわ。湖の底に沈んでおればいいものを……。どうして今になって陸に興味を示すのか聞いてみたいもんでさ!水辺からこっちは人間さまの土地だって…の…に………」 農夫の声が切れ切れになる。 シエスタとモンモランシーは、頭に?を浮かべた。 農夫の顔から血の気が引いていき、手がプルプルと震え出す。 「言いたいことはそれだけですか」 カリーヌが静かに呟いた。 カリーヌの刺すような視線に射竦められた農夫は、「へへぇ」と平伏すると、まるで逃げるように立ち去っていった。 モンモランシーは、改めてカリーヌの恐ろしさを知った気がした。 懇願ならともかく、愚痴を聞かされて気分の良い物ではないが、愚痴を言っただけでカリーヌの鋭い視線に晒されると思うと、冷や汗が吹き出そうになる。 シエスタはカリーヌを怖いと思わなかったが、とっつきにくそうな人だなと、改めて感じた。 モンモランシーが気を取り直し、腰にさげた袋からなにかを取り出した。 「…カエル、ですか?」 手のひらをのぞき込んだシエスタが呟く。 シエスタの見たとおり、モンモランシーの左手に乗っているのは一匹の小さなカエル。 鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。 「ロビンって言うの、私の大事な使い魔よ」 ロビンと呼ばれたカエルは、モンモランシーの手のひらの上で、まっすぐにモンモランシーを見つめていた。 モンモランシーは右手の人差し指を立てて、ロビンに命令する。 「いいこと? ロビン。あなたたちの古いおともだちと、連絡が取りたいの」 モンモランシーはポケットから針を取り出し、片手で器用に指の先を突く。 指先に赤い血の玉が膨れ上がると、その血を一滴ロビンに垂らした。 小声でルーンを唱え指先の傷を治すと、残った血をぺろっと舐めて、再びカエルに顔を近づけた。 「私の臭いを覚えていれば、これで解ると思うわ。ロビン、偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げてちょうだいね。わかった?」 ロビンはぴょこんと頷くような仕草をすると、ぴょんと大きく飛び跳ねて、水の中へと消えていった。 モンモランシーがシエスタとカリーヌの方に向き直り、口を開く。 「今、ロビンが水の精霊を呼びに行ったわ。見つかったら、連れてきてくれるでしょう」 シエスタがモンモランシーの隣に立ち、湖面を見つめる。 「この中に水の精霊がいるんですよね…どんな姿をしてるのか、ちょっとドキドキしますね」 「水の精霊は人間よりもずっと、ずーっと長く生きている存在よ。六千年前に始祖ブリミルがハルケギニアに光臨した際には、すでに存在していたというわ。その体は、まるで水のように自在にかたちを変えて、陽光を受けるとキラキラと七色に輝き…」 と、そこまで口にした瞬間、30メイルほど離れた水面がぼんやりと光り輝き始めた。 岸辺からそれを見つめていると、輝きはどんどんと増していき、まばゆい光が水面から放たれる。 水面はまるで意志を持ったかのように蠢き、巨大な水滴が空に向かって落ちるような、幻想的な光景となっていった。 シエスタはあっけにとられ、口を半開きにしたままその様子を見つめていた。 盛り上がった水は、うねうねと様々な形に変わっていく、巨大な粘菌とでも呼ぶべきだろうか、陽光を取り込み七色に光るその姿は確かに綺麗だが、形そのものは怖い気もした。 湖面から顔を出したロビンが、ぴょんぴょんと跳ねてモンモランシーの元に戻る。 しゃがんで手をかざしロビンを迎え、指で頭を撫でてやると、ロビンは嬉しそうにゲコッと鳴いた。 「ありがとう。きちんと連れてきてくれたのね」 モンモランシーは立ち上がり、水の精霊に向けて両手を広げ、声をかけた。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系。 カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたら、わたしたちにわかるやりかたと言葉で返事をしてちょうだい」 水の固まりのような、水の精霊がぐねぐねと蠢き、人間のような形を取り始める。 その動きをじっと見ていたシエスタは、驚きのあまり目を丸くした。 水の塊は、モンモランシーにそっくりな姿を取ったのだ。 モンモランシーそっくりな水の固まりは、表情をころころと変えていく。 笑顔、怒り、泣き顔……それはまるで表情を試すような動きだった。 表情が一巡すると、水の固まりは無表情になって、体全体を奮わせて声を出した。 「覚えている。単なる者よ。覚えている。太陽よ。貴様の体を流れる液体を、貴様の体を流れる太陽の波を、我は覚えている……」 「太陽? と、とにかく、私のことは覚えていてくれたのよね?」 モンモランシーが内心の焦りを隠しきれず、ついつい強い調子で質問してしまう。 だが水の精霊は無表情のまま「覚えている。単なる者よ」と繰り返しただけだった。 「……コホン。…水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部をわけて欲しいの」 水の精霊は、表情を変えずに声を出した。 「断る、単なる者よ」 「そんな!」 モンモランシーが思わず声を上げた、心なしかカリーヌの眉がぴくりと動いた気もする。 シエスタはモンモランシーの隣に並んで、胸の前で両手を合わせて握りしめ、水の精霊に向かって叫んだ。 「お願いです… ある人を助けるために必要なんです!」 「ちょっ…!やめなさいよ! 怒らせたらまずいわよ!」 モンモランシーはシエスタを後ろに下がらせようとしたが、シエスタはひるまず真っ直ぐに水の精霊を見つめている。 「お願いします!何でも言うことを聞きます。だから『水の精霊の涙』をわけて頂けませんか? どうか、どうかお願いします……」 モンモランシーの姿をした水の精霊は、なにも返事をしなかった。 シエスタは膝をつくと、地面に頭をこすりつけるほど下げて、まるで土下座のような格好で水の精霊に言った。 「お願いです…! 私は恩人に報いたいんです! ルイズ様にとって大切な人は、私にとっても大事な人なんです…、『水の精霊の涙』がどうしても必要なんです! だから…」 シエスタの必死の懇願を見て、モンモランシーはシエスタを制止しようとしていた手を止めた。 シエスタにとって、ルイズはそんなに大事な人だったのか? モンモランシーにも、ルイズをバカにしている気持ちはあった、だがフーケを追って死んだ級友は、ある意味で誇り高いとも言える。 だが、ルイズを茶化す気持ちは、ゼロのルイズをバカにする気持ちは、心の何処かに残っていた。 シエスタは、ルイズを恩人だと言っていたが、これ程までにルイズに心酔しているとは思わなかった。 カトレアを治すために土下座までするとは思っても居なかった。 もしかしたら、ラ・ヴァリエールからの援助を受けるため、オールド・オスマンが指示した行動かも知れない。 シエスタの行動は芝居かも知れない…… けれども、今この場で、水の精霊を恐れず懇願するシエスタの姿に、少なからず衝撃を受けた。 モンモランシーは水の精霊に向き直り、自分からももう一度頼んでみようと意を決した。 だが水の精霊は、突然ふるふると震えだし、姿かたちを何度も変えた。 うねうねと形を変え、モンモランシーの姿から、見たこともない女性の姿に変わった。 それはとても美しく、凛々しい女性の姿であったが、シエスタにとっては何処か懐かしい女性のような気がしてならなかった。 「よかろう……しかし、条件がある。世の理を知らぬ単なる者よ。何でもすると申したな?」 「はい、いいました」 いつの間にか顔を上げていたシエスタが、水の精霊を見上げて返事をする。 「ならば条件を出そう。我に仇なす貴様らの同胞を退治してみせよ。」 シエスタとモンモランシーは顔を見合わせ、呟いた。 「「退治?」」 「さよう。我は今、水を増やすことで精一杯で、襲撃者の対処にまで手が回らぬ…。そのもの共を退治すれば、望みどおり我の一部を渡そう」 要は、水の精霊を相手にするようなメイジと戦って、勝てと言っているのだ。 モンモランシーの額に冷や汗が浮かんだ。 「…………やるしかない、わよね」 「そうです、ね」 二人は顔を見合わせて、苦笑した。 水の精霊が住む場所は、はるか湖底の奥深くだと言われている。 襲撃者は夜になるとやって来て、魔法を使い水の中に侵入、水の精霊を襲撃する。 水の精霊によれば、襲撃者が来るのはガリア側の岸辺だという。 シエスタとモンモランシーの二人はガリア側の岸辺に隠れて、襲撃者を待つはずだった。 だが二人は、トリステイン側の岸辺に停められた竜車の中で、寂しく夕食を取っていた。 カリーヌは客人を危険な目に遭わせられないと言って、単独でガリア側の岸辺に向かったのだ。 どこからか調達したバスケット一杯のサンドイッチを渡されたが、食欲が湧かないのか中身はほとんど減っていない。 この竜車は、緊急時の外泊を考えられており、椅子を引き出すとシエスタとモンモランシーが寝るには十分な広さのベッドになる。 貴族の馬車という寄り、軍人の馬車と言うべき設備だった。 「…大丈夫なんでしょうか」 「あんなに強く『一人で行きます』なんて言われたら断れないわよ」 シエスタは、一人でガリア側の岸部に向かったカリーヌを案じて、車の窓から外を見渡した。 ルイズが魔法で爆発を起こし、土くれのフーケごと木っ端微塵に吹き飛んだと言われているあの日も、こんな夜だったかもしれない… シエスタの胸に、ルイズへの憧れと、石仮面への恐れが去来した。 カリーヌ・デジレは、持参した軍服に着替え、木の上に座り瞑想していた。 マンティコア隊の服ではなく、それよりもっと昔、まだ魔法衛士隊に入隊する前の服だった。 ルイズと同じぐらいの年代、16の頃だっただろうか、その頃から魔法衛士への憧れがあった。 カリーヌは静かに過去を思い出し、静かに微笑んだ。 それから一時間ほど経った頃だろうか、岸辺に近づく人の気配に気づき、薄目を空けてそれを視認した。 人数は二人、漆黒のローブを身にまとい深くフードをかぶっている。 男か女かもわからないが、その二人は水辺に立つと杖を抜きルーンを唱えていたので、襲撃者には間違いなさそうだった。 カリーヌは小声でレビテーションを唱え、ゆっくり着地する。 ローブを身に纏った二人組は、硬直したように動きを止めた。 「!」 襲撃者の一人が杖を掲げる、と同時に空中に作られた炎がカリーヌを襲う。 同時に、もう一人の襲撃者が距離を取りつつルーンを詠唱し、地面に『エア・ハンマー』が打ち込まれた。 土が跳ね上がり、カリーヌの視界が塞がれる。 無数の炎の玉が作り出され、雨のようにカリーヌの頭上を覆う。 氷の刃が竜巻のようにカリーヌを包み、その肉を引きちぎり骨を砕く。 ……はずだった。 ギュン!と音がして周囲の空気が圧縮され、土煙と氷と炎は一つの固まりとなった。 無数の魔法に晒されたはずのカリーヌはまったくの無傷であり、土埃の汚れ一つとして無い。 カリーヌは直立不動のまま、右手に持った杖に力を込め、ルーンを詠唱する。 ただ「風を起こせ」という意味のルーンであり、風系統ではもっとも初歩のもの。 それはまるで、鉄砲水のような粘りを持った風となり、遠く上空で待機していた風竜を巻き込んで、襲撃者二人の体を巻き上げた。 空中で竜巻に飲まれた二人の手から、杖が離れる。 150サントはありそうな大きな杖と、20サント程度の小さな杖が風に乗ってカリーヌの手元に届けられた。 カリーヌは、腰から下げたロープを空中に放り投げると、風に乗せて宙に舞わせた。 ロープは風に乗って襲撃者の両手両足に絡みつき、その動きを封じる。 そして襲撃者の二人はゆっくりと地面に降ろされ、風竜は目を回して地面に倒れ込んだ。 『烈風』の異名を持つ彼女は、感情の読めぬ冷たい瞳で、襲撃者を見下ろしていた… To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3230.html
前ページ次ページゼロと疾風 黒い壁があった。それは、例外なく目の前に現れる。ストリートのガキにも、大統領でさえ。 ほとんどのモノは、それを砕くことは出来ず、乗り越えようとするモノは爪が剥がれ、赤い筋を残すことになる。 ほとんどのモノはその壁から目をそらす。しかし、その壁に真っ向から向かい合っているモノもいる。 その黒き壁にあがこうとする人間がいる。この物語はそんな人間の物語。 現在、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは医務室にて頭を抱えて一人の男を見ていた。男はベッドの上で気を失っている。 ルイズは二年生へ進学する際のサモン・サーヴァントによってこの男を召喚・契約したのだ。 「なんで、こんな奴召喚しちゃったのよ・・・・・・」 先日、「サモン・サーヴァントには自信がある」と言ってしまったばかりである。 その結果がこれ。 本来、動物や幻獣を召喚するサモン・サーヴァント。その、儀式で人間(そのうえ、気を失っており、かなり傷ついている)を召喚してしまったのでルイズは周りのギャラリーから笑いものにされた。 その場にいたコルベール先生が彼の身なりから判断し。 「彼は凄腕の傭兵であるにちがいない」と言っていたが、メイジに平民に敵うはずが無い。 いくら、凄腕といっても平民の傭兵を召喚しては意味が無い。 「どうしようかしら・・・とりあえず、雑用でもさせようかな?」 ルイズがそんなことを考えていると男の眼がゆっくりと開き、起き上がった。 白髪の男性はチップという。彼は自称ジャパニーズ、しかし、大統領を目指している忍者である。 チップが長い眠りから眼を覚ました。頭がまだぼやけている。 チップはよく頭をめぐらせた。 (そうだ、I=NOのやつと戦っていたら急に何かに巻き込まれたんだった・・・) チップはI=NOの時間移動に巻きこまれたのだ。そんでもって、気がついたここにいる。 「やっと気がつたのね」 声のした方向を向いてみると一人の少女がいる。ルイズである。 「まずは自己紹介でもする?私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。一応よろしく」 隠れた表情を読むのは忍びの基本だ。チップが彼女から読み取った表情。 見下し、怒りをとおり越した諦めetc 少なくともチップの嫌いな人間に当てはまっている。 しかし、相手が名乗ったのだ。自分も名乗るのが筋だろう。 それに、ここが何処だか分からない。 「チップ、チップ=ザナフだ。ここは何処だ?薬品の臭いがするってことは病院かなんかか?」 「ここは、トリステイン王国・トリステイン魔法学院の医務室よ」 チップの聞いたことが無い地名だ。それに、魔法学校というのは法術に関する機関だろうか。 「とりあえず、ここを出ましょう。私の部屋で貴方が今置かれている立場を教えてあげるわ」 チップがルイズとの状況確認によって分かったこと。 この世界(月が二つあるのでチップのいた世界ではない)では魔法使いがいて、彼女は魔法使いの貴族である。 そしてこの場所は貴族が通う魔法学校である。 学生は二年生になるとき使い魔を召喚する。 チップはその使い魔を召喚するサモン・サーヴァントによって召喚された。 召喚される使い魔は自分での選択は出来ない。 使い魔は本来幻獣や動物が召喚される。 一度召喚されたからには変更は出来ない。(召喚のやり直しを求めたが却下されたらしい) チップとはもうすでに契約を行っており、証拠は左手に刻まれているルーン。 元に戻る方法は少なくも彼女は知らない。 大体こんな感じだ。他にもなんか言っていたが正直チップは興味なかった。 ルイズがチップとの状況確認によって分かったこと。 チップは異世界から来た。 (幾つかその世界について質問したがすぐに答えが返ってきた。特に矛盾点は無く嘘をついている様子も無いので一応信じる) チップは異世界ではニンジャという種類の傭兵である。 現在、ローニン(雇い主無しのフリー状態という意味らしい) チップの世界には法術があり、それは魔法と少し似ているらしい。 I=NOという女と戦っている最中、その女の何かに巻き込まれ気がついたらここにいる。 他は特に興味なし。 部屋着いてからこれらの状況確認に1時間かかった。この時間が短いと感じるか長いと感じるかは皆さんの自由だ。 「とりあえず、私は貴方の生活の保障、それと元の場所に戻れる方法を探すわ。 その代わり、あんたはその間私の使い魔、つまりわたしに雇われる。それでいいわね?」 「しょうがねえな・・・わかったよ」 ちなみに、状況確認からこのやり取りまで、更に30分間。正直メンドイので省略。 こうして、チップとルイズの生活が始まった。 「とりあえず、もう疲れたわ。朝になったら起こしてね。それと、洗濯頼んだわよ」 「はあ?なんで俺がそんなことしなきゃならないんだ?エリカだってそんなこと言わなかったぞ」 「エリカって誰よ?」 「俺が前仕えていた奴だ。大統領をやっていたな」 「ダイトーリョーってなに?山賊や大工の凄いバージョンの親玉?」 「国の代表だ、王様みたいなもんだ。いや、王様は『成ることが出来る』もんだが大統領は『選ばれなきゃ成れない』つまり、王様より偉い奴だ」 「へー」 「でもって、俺はその大統領に雇われていたが、 そんなこと頼まれなかったぞ。王様より偉い奴がしなかったことをテメエはするの?」 「う・・・」一時間半以上の怒鳴りあいによって疲れているルイズには論破する気力はなかった。 「洗濯ぐらい自分でやれ、あと自分で起きろ」 ルイズとチップの生活は前途多難だ。 「じゃあ、あんたが寝るところだけど・・・」 「別に必要ねえよ」 「へ?」 「忍びは闇に潜み主を守る。用があるなら手を叩け」 そういうとチップは闇に消えていった 部屋に取り残されたルイズは考えていた。 雑用などは断っていたが、あの身のこなしは凄い。 「意外と使えるのかな?」 最初決めていた彼の扱いを少し変えなくては、と考えた。 しかし、今は眠い。 「明日考えよ」 ルイズはそういい終えると服を脱ぎ、ベッドにもぐり寝息を立て始めた チップはやるからにはやる男だ。 物には必ず『芯』がある。守るも攻めるも、まずはこの芯を押さえる。チップはまず魔法学校の芯を探した。 歴史の古い建物というだけあって、様々な隠し部屋・隠し通路などがあった。 チップはその中のある隠し部屋に陣取った。ここなら、どんなことが起きようとすぐに分かる。 チップも疲れていたのか、全神経を研ぎ澄ませて眠りについた。 前ページ次ページゼロと疾風
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2853.html
俺の名前は平賀才人。ルイズの『二人目』の使い魔だ。 元々俺は地球の日本にいたのだが何の因果かハルケギニアっていう場所に呼び出されちまった。 召喚されたときはそりゃ泣いたりしたが『住めば都』っていう言葉通り結構環境が良かった。 ご主人様であるルイズは以前までは結構厳しい性格だったらしいが。 『最初に召喚した使い魔』のおかげでその性格を改善したらしい。恩に着るよ。 俺がルイズに怒ったことは、初めてルイズの部屋に入った時にドアを開けたら本の山が俺に襲いかかってきたことだ。 そのとき俺は本の中に埋まって危うく死にかけるところだった。 部屋の中も凄まじく、ところせましに本の塔が建てられていた。 俺はルイズに少しは片づけたらどうだって言ったらルイズは返事をしただけで以来ちっとも片づけようともしない。 しょうがなく使い魔として掃除しようとしたら乗馬用の鞭で叩かれちまった。痛かったぜ…。 そんなあくる日のこと、ルイズのいない部屋でのんびりしていたらふとある物が目に入った。 それは『帽子』だった。よく魔法使いが被る黒い帽子、それがベッドの横に置いてある。 俺は何故かそれが気になったので帽子を手に取ってみると帽子の下に日記が置いてあった。 タイトルが書かれてあったがこの国の言葉はまだわからなかったら何なのかさっぱりだった。 俺は気になったのでページを開いてみると…そこには懐かしい日本語が書かれていた。 俺はプライバシーに関わりそうな事を理解して、日記を読む事にした。 ○月○日 (これは私が元いた世界の日にちだが) 私を召喚したルイズって奴から日記を借りた。 こんなに珍しい事は無い、珍しい事があったら日記に書き取っておこう。 しかしルイズから聞いた話だけだがこの世界には珍しい物がたくさんありそうでワクワクするぜ。 ▽月⊿日 今日ルイズやキュルケ達と一緒に『土くれ』のフーケとか言う奴を退治しにいった。 そいつはでかいゴーレムを作って襲いかかって来たが私の『マスタースパーク』であっという間に倒してやったぜ。 その後にノコノコと出てきたフーケの正体はなんと学院長の秘書だった。あの時は驚いたぜ。 『破壊の杖』は手に入れたかったが学院長が断固として断ったため代わりに『遠見の鏡』をもらった。 ★月★日 アルビオンから久方ぶりに帰ってきた。 まさかあのワルドって野郎が敵だったとは知らなかった。まぁすぐに倒してやったけど。 後帰るついでにアルビオンの宝物庫からいろいろと拝借してきたぜ。 でもそのせいでお姫様の愛人をむざむざ見殺しにしてしまった。 あの時気づいていれば助けられたのに…本当に情けないぜ。 ☆月☆日 やっと元の世界に帰れる方法を見つけた。 ルイズはそれを聞いて帰らせまいと私にしがみついたが仕方なく自作の眠り粉をかがせた。 この日記は置いておこう、短い間だったがルイズは私のことを本当の親子か何かのように慕ってくれた。 だから私がここにいたことをここに残しておくぜ。後、名残惜しいが良く喋る剣も残しておこう。 本当ならすぐにでも帰りたいがなんかこの国にレコン・キスタとかいう連中が近づいているらしい。 どうせ最後だ、この霧雨魔理沙がハルケギニアにいたことを記録に刻んでやるぜ。 追伸、恐らく次に召喚される奴。人間で日本語が分かる奴に伝えておく。 私の代わりにルイズの世話を見てくれ。 『タルブ会戦』の折、箒に跨りたった一人でレコンキスタの旗艦『レキンシントン』号を沈めたうえに竜騎兵を全滅させたメイジがいた。 その者の名は……キリサメマリサ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、霧雨魔理沙。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2218.html
「ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」 「おいおい、あんまり召喚が出来ないもんだから、そこらへんの平民を雇ったんじゃないのか?」 失敗に次ぐ失敗を繰り返すこと24回。 ルイズの召喚魔法で現われたのは、ほっそりした黒髪の美人だった。 「ミスタ・コルベール! やりなおしをさせて下さい!」 あまりの事にやりなおしを要求するルイズだったが、コルベール先生はにべもない。 春の使い魔召喚は神聖な儀式だ、やり直しは認められないの一点張り。 「でもっ、平民が使い魔だなんて聞いたことありません!」 「実は私、平民じゃなくて貴族なんです」 「ええっ!?」 「なんですと!?」 召喚された使い魔の突然の発言に驚くルイズとコルベール先生。 貴族を召喚したとなると、場合によっては国際問題にもなりうる大変な事件だ。 「ほ、本当に貴族なのですか?」 「ええ、嘘です」 困惑しながら聞いたコルベール先生に、しれっとした顔で答える女性。 「本当は私、エルフなんです」 「ええええええ、エルフー!?」 ズサッと音をたてて女性から離れるルイズ。 他の生徒も一様に数歩後ろに下がっている。それほどにエルフは恐れられているのだ。 「どどどどどうせまた嘘なんでしょう? だって耳が長くないじゃない!」 「私の父はエルフだったんですが、人間だった母と恋に落ちて、私が生まれたんです。 でも、二人の仲を認めない周囲の人達によって二人は……そして私もあわや……」 「そんな事があったのですか……おかわいそうに、ミス、えーっと……」 「ひとみです」 「ミス・ヒトミ。それでは本当に、あなたはエルフの血を引いているのですね?」 悲痛な表情で同情したようにコルベール先生が言う。 彼は基本的に平民にも分け隔てなく優しい人物だ。 もちろん、ひとみと名乗った女性が美人だからというのも無関係では無いが。 「ええ、もちろん嘘です」 「なんですかそれはーっ!!」 ガクっとこけるコルベール先生。 周囲の生徒達も一気に脱力してしまう。 その中からいち早く立ち直ったのはルイズだった。 「ミスタ・コルベール! やっぱりこんな嘘つきの使い魔なんて嫌です!! やり直しをさせて下さい!」 「ダメですよミス・ヴァリエール。きちんと契約しないと、進級できませんからね?」 「ううううう……仕方ないわ。こうなったらさっさと契約よ」 「契約……さては私にインチキな商品を売りつけて身包みをはがそうという魂胆ですね?」 「そーゆー契約じゃないわよ!」 「そうですか、安心しました。ではこの契約書にサインをお願いしますね」 「えーっと、ここで良いのかしら……って、ちがーう! 貴方が私と契約するんじゃなくて、私が貴方と契約するのよっ!!」 「まぁまぁ、べつにどっちでも良いじゃないですか」 「良くないわよ! 大体何よこの契約書は! 『私は貴方に全財産を譲渡します』? こんな契約するワケないでしょう!」 「ちっ」 「アンタ今『ちっ』て言ったぁ!!」 「しかたありません。お詫びに貴方と契約をしましょう」 「は、はじめっからそうすれば良いのよ」 「そのかわり、私の身の回りの世話と秘薬の原料を探してくる仕事、それと私の護衛は貴方がやって下さいね」 「逆でしょうがソレっ! って言うかなんでそんなに詳しいのよ!」 「ゼロの使い魔は全巻読んでますから」 「ナニよソレ?」 「もちろん嘘です。これなんてエロゲな小説なんか全然読んでません。 12巻なんか覗きとか百合とか大変な事になってるじゃないですか」 「キッチリ読んでるじゃないのーっ!!」 「タバサの冒険の2巻は今月発売なんですよね? この近くにライトノベルが置いてる本屋さんってありますか?」 「知るかーっ!」 「でもラノベって店員さんにオタクの人が居ないとレーベルの絞りが甘かったり、在庫の揃いが悪くて大変なんですよシャナさん?」 「そーゆーこと言うの禁止! 二重の意味で禁止よっ!」 「うるさい! うるさい! って言ってください。メロンパンあげますから」 「要らないから黙れ!」 「24のひとみ実写ドラマも10月放映なのでお見逃し無く」 「ますます知るかーっ!!」 凄い勢いでボケるひとみと突っ込むルイズ。 「い…いいかげんに……ゼイ……ハァ……そのしょうも……ない発言を、やめ……ハア」 「あら、それじゃあ私は必要ないって事ですよね? では失礼しますねー」 「え!? あ、ちょっと! ハァ、ハァ、ってゆーか、ゼイ、しょうもない発言が、ハァアンタの存在意義なの……?」 ついに息切れしたルイズがゼーハーと息を整え、周囲の誰もがポカーンと呆れているうちに、スタコラと逃げ出してしまった。 既に息が切れて追いかける体力も無いルイズ。 この後当然、クラスメイトから「召喚した使い魔に逃げられた」と馬鹿にされてしまうのだった。 こうしてルイズの春の使い魔召喚儀式は失敗。 失意に崩れ落ちそうな少女は、追い討ちのように学院長室へ呼び出しを受けてしまう。 「ああ、きっと留年を通告されるんだわ……お父さまやお母様やお姉さまになんて言おう……」 思い足取りで階段を登り、いっそこのまま何処か知らない国に出奔してしまった方が楽かと思い悩みながら、 ルイズは学院長室の立派で大きなドアをノックした。 「どうぞ、入って下さい」 中から女性の声が聞こえる。 しかし、それは秘書のミス・ロングビルの声ではなかった。 ついにセクハラに耐えかねて新しい秘書に代わったかと思いながらドアノブに手をかける。 「鍵はかかってますから。あと開けると爆発するトラップが」 「そんなワケあるかー! 見つけたわよ私の嘘つき使い魔!」 蹴破るぐらいの勢いで扉を開け、学院長室へ転がり込むルイズ。 「はい、嘘です」 「なんでこんな所に居るかは聞かないわヒトミ! とにかく私の進級のために契約しなさい!!」 「ダメですよルイズさん。先生をヒトミなんて呼び捨てにしちゃあ」 「誰が先生よ! もうアンタの嘘はお腹一杯なの!」 「いや、ミス・ヴァリエール。それは本当じゃ」 「え?」 ギギギと音がするような動きで首をめぐらせた先に居たのは、学院長のオールド・オスマン。 「ミス・ヒトミは今日から我が学院の教師になった。 それに伴い、ミス・ヴァリエールの進級は特例として認められたので、安心なさい」 優しく言葉をかけてくれる学院長。 しかし、ルイズにとってはもっと気になる部分があった。 「ヒトミ、先生?」 「はい」 あまりの理不尽な展開に目の前が暗くなる。 どうせオールド・オスマンは美人だからとかそんな理由で教師にしてしまったに違いない。 トリステイン魔法学院オワタ。 そう思いながら、ルイズの意識は暗転していった。 「ってお話が冒頭から全部嘘なんですけどね」 そんな声を遠くに聞きながら。 終わり 週間少年チャンピオン連載の「24のひとみ」から 嘘つき美人教師ひとみ先生召喚でした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1712.html
前ページ次ページゼロの大魔道士 「で、ですが!」 「そうはいいますが、ミス・ヴァリエール。ゲートから出てきたと思われる以上…」 現在、ルイズは非常に狼狽していた。 召喚に成功したと思えば、当の召喚獣――竜(マザードラゴン)が契約前に逃げ出してしまったのだ。 これは前代未聞の出来事であり、同時に大恥であることは間違いない。 いや、それだけですめばまだいいほうだ。 実家に伝わればヴァリエール家の恥として放逐されてもおかしくはない。 だが、絶望に沈もうとしていたルイズを拾い上げたのは何故か頬を赤らめたコルベールだった。 時間は数分前に遡る。 気色悪い呆け顔で「ぱふぱふ…」とか呟いていた彼コルベールが、ルイズの下に敷かれている人間に気がついたのである。 コルベールの指摘でようやくそのことに気がついたルイズは慌てて跳ね起きた。 生徒の誰かを尻に敷いていたまま放置していたのならばそれは十分に失礼な行為だからだ。 だが、見下ろした顔に見覚えはなかった。 それどころではない、気絶して寝転がっている少年は見たこともない服装をしているではないか。 「…なんで平民がここに?」 ルイズはぽつりと呟いた。 ここトリステイン王国には、決定的な身分差が存在している。 すなわち、貴族と平民だ。 その判別方法は至って簡単で、魔法を使えるものが貴族、そうでないものが平民というもの。 中には例外(貴族から没落したメイジ)などもいるが、この概念はトリステインに住む者ほぼ全てに適用される。 然るに、ルイズの目の前にいる少年はマントこそ着用しているものの、見たことのないデザインの服を身につけている。 そして杖は持っていない。 つまりは、この少年は平民であると判断されるわけである。 「ふむ、どうやらこの少年もサモン・サーヴァントによって現れたようですな」 「え?」 「ミス・ヴァリエール、この少年とコントラクト・サーヴァントを」 「へ、え? えええええ!?」 ルイズは驚いた。 このハゲ教師はいきなり何を言い出すのか。 そもそも、自分が召喚したのはあの神々しい竜である。 間違ってもマヌケ面を晒して気絶している平民ではないはずだ。 「召喚した生物とコントラクト・サーヴァントを行うのが今日の目的です。であるからして」 「ちょ、ちょっと待ってください! 私が召喚したのはあの竜で…!」 「ですが、逃げられてしまったでしょう?」 「う…」 容赦のないコルベールの一言にルイズはグウの音も出ない。 だが、コルベールとしてはこの場における一番の打開策を出したつもりだった。 確かに竜は逃げ出してしまったが、少年も召喚によって現れたことは間違いない。 となると、少年もルイズと契約を交わす資格を持っていることになる。 複数召喚などこれまた前代未聞の出来事だが、始祖ブリミルは四体の使い魔を所有していたという。 これはルイズが規格外の存在であることを示しているわけであり、少年もなんらかの特殊さを持っている可能性は高い。 ならば、この場を取り繕うという意味もあるが、とりあえずコントラクト・サーヴァントを行うのが一番良いはずなのだ。 「あはは、流石はゼロのルイズ!」 「召喚した使い魔に逃げられたと思ったら、平民と契約か!」 確かに…と納得しかけたルイズに周囲の生徒から野次が飛ぶ。 コルベールほど洞察に優れない彼らは単純な事実『竜が逃げた』『残ったのは平民』という二点を認識していたのだ。 「ううっ…」 ルイズはぎゅっと唇を噛んだ。 竜を使い魔に出来ると思っていたのにそれが平民にランクダウンしたのだから無理もない。 だが背に腹はかえられない。 使い魔に逃げられるという失態を犯した以上、もはやコントラクト・サーヴァントを嫌がるという選択肢は取り様がないのだ。 「し、仕方ないわね! アンタで我慢してあげるわ!」 そして時間は現在に戻る。 どうにか心の折り合いをつけたルイズは少年を抱き起こすと顔を近づけ、詠唱を始めた。 と、その時。 「う…あ…?」 少年が目覚めた。 意識はまだハッキリしていないのか、目がキョロキョロと動き回る。 だが、ルイズはそれに構わずに更に顔を近づける。 詠唱が終わり、少年――ポップの視界いっぱいにルイズの顔が映り、そして 「ん…」 契約のキスが交わされた。 「うっぐ…な、なんだ…!?」 ポップは急な痛みに意識を覚醒させた。 周囲の状況を確認するよりも先に痛みが体を駆け巡る。 その痛み、熱といいかえてもよいそれは左手へと集中していく。 そして数秒後、ポップの左手には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。 「な、なんだこれ!? 呪いか!?」 「失礼ね! これはルーン。アンタが私の使い魔になった証よ」 「は? ルーン? 使い魔? 一体何を言って…」 「ああ、ごちゃごちゃうるさい! いい、私は今非常に気が立っているの! ああもうなんでこんな平民と…」 「落ち着きなさいミス・ヴァリエール」 癇癪を起こしかけていたルイズに近づいてきたのはコルベールだった。 (おいおい、冗談じゃないぜ…) ルイズをなだめすかしているコルベールを常識人と見たポップは状況を把握するべく彼に話を聞き、空を仰いだ。 サモン・サーヴァント、トリステイン、ハルケギニア… そのどれもが聞き覚えのない単語ばかりだった。 しかも、話をまとめると自分は目の前のピンクの髪の少女――ルイズというらしい、の使い魔になってしまったのだという。 (本人の承諾なしにそんなこと勝手に決めんなよ…) 既に自分を使い魔扱いしているルイズにポップは溜息をつく。 気になることは二点。 まず、ダイはどうなったのかという点だ。 話を聞いた限り、マザードラゴンはどこかへ飛び立っていったという。 彼女の性質上、人の目に付くような場所に降り立つとは思えないので発見は困難だろう。 (ようやく見つけたっていうのに…) 話を聞く限り、すべての原因は目の前の少女にある。 如何に女の子に甘いポップといえどもそういう事情となればルイズに好印象を抱くのは無理があった。 「何よその目は」 「いんや別に」 「言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」 一方、ルイズはルイズで目の前の少年に憤っていた。 彼女本来の目的からすればコントラクト・サーヴァントが成功しただけでも十分満足できるはずだったのだが なんせ竜→平民という格差である。 怒りを覚えるのも無理はない。 かくして、ルイズとポップという少年少女の邂逅はお互い共に悪印象から始まるのだった。 ついて来いとせかすルイズとそんな少女を心配気に見守るコルベール。 そんな二人を見ながらポップはもう一つの懸案事項――これからどうするか、を考える。 とりあえず、ここは見ず知らずの土地であることは間違いない。 目の前の人物たちが精霊や魔族に見えない以上天界ないしは魔界という線はない。 発見されていない大陸、というのも流石に考えづらい。 となると考え付くのは―― (異世界とか? まあ天界や魔界があるんだから可能性はあるんだが…あ、そうだ) ポップはこっそりとある呪文を呟いた。 その呪文の名は瞬間移動呪文ルーラ。 一度訪れた場所に一瞬にして移動できるという高等呪文の一つである。 (…発動しない? いや、発動後にキャンセルされた?) ルーラの発動自体は確かに起こった。 だが、ポップの体はその場から一歩も動かない。 そう、まるで『行ったことがない場所に向けてルーラを唱えた』かのように。 (おれは今確かに昨日のキャンプ場所を想像したはず…おいおい、マジで異世界の可能性が高くなってきたぞ…) バーンパレスのように空にバリアが展開されているわけでもない。 というかそうだとしてもある程度までは移動が行われるはず。 にもかかわらずルーラはポップの体を運ばない。 これが指し示すことはつまり、ルーラの効果が及びようがない場所に自分はいるということになる。 (勘弁してくれよ…) 大魔王と戦うなんていう非常識をこなしてきたポップからしても異世界に飛ばされたという事態は想定外にもほどがあった。 ダイはどこかへ行ってしまった、帰る方法はわからない。 生命の心配こそとりあえずなさそうではあるが、状況は最悪だといってもよかった。 (とりあえず、情報を集めねえと) ダイを探すにしろ、元の場所に戻るにしろ、右も左もわからない場所にいる以上情報は必須である。 長い間旅を続けてきたポップは情報の大切さをよくわかっていた。 そして、情報源として期待できるのは目の前にいる二人の人間であるということも。 (しっかし、契約ねぇ…呪いみたいなもんじゃねえか) 自分をおいてサッサと行こうとするルイズを半眼で睨みつつポップはどうしたものかと頭をひねらせる。 少なくとも自分は同意した覚えがないのに勝手に使い魔にされたのだ。 情報を集めるという目的上、主人だというルイズに友好を示すことはやぶさかではない、可愛いし。 しかし、使い魔というのは御免被る。 いくら可愛い女の子とはいえ、下僕にされるのは嫌だし、自分にはダイを探すという目的があるのだ。 そのためにはフリーな立場に戻らなければならない。 いっそこの場からトベルーラで逃げ出すか? そんな不穏なことを考える。 (待てよ、ひょっとしたら…) ポップの頭に閃きが走った。 現在、自分をルイズの使い魔たらんと示しているのは左手のルーンである。 つまり、逆をいえばルーンさえなければ使い魔契約は撤廃できるということになる。 だが、聞いた話では使い魔の契約が切れるのは使い魔、つまり自分が死んだ時だけだという。 当然、死ぬ気などサラサラないポップ。 (あの呪文なら…) この時、彼が思いついた方法は思わぬ事態を引き起こすこととなる。 だが、神ならぬポップは物は試しとばかりにその呪文を唱えた。 「シャナク!」 前ページ次ページゼロの大魔道士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4127.html
前ページ次ページ雇われた使い魔 大きな爆音と共に現れた奇妙な生物。 その生物を召喚したルイズといわれている少女は目をぱちくりさせていた。 後ろでルイズを煽っていたギャラリー達もルイズと同じような反応をしている。 『サモン・サーヴァント』という召喚の儀式でルイズが呼び出した生物は、 狐と人間が合体したような、なんとも奇妙な動物であった。 「……何これ」 ルイズは、自分が召喚した奇妙な動物におそるおそる近寄る。 爆風によって舞い上がった砂埃が晴れ、今はその謎の動物の容姿が手に取るように分かる。 顔は狐。よく見ると尻尾も生えている。しかし体は人間のような骨格をしている。 おまけに服も着ており、彼の顔にはよくわからないアクセサリーのようなものがついていた。 「おいおい、なんだよアレ? 狐じゃあ……ねえよな?」 「ルイズが召喚したから骨格がおかしくなっちまったんじゃねーの?」 「でも服を着ているしな……」 ギャラリーが騒然となる中、ルイズは自分の使い魔となるその動物をじっと見つめていた。 気絶しているのか、はたまた眠っているのか、その動物は目を閉じたまま動かない。 まさか死んでいるのではないだろうかと、ルイズの頭に嫌な予感が過ぎる。 何回、何十回と失敗をし、やっと召喚できた動物なのだ、死んでしまっていたらたまったものではない。 ルイズは生死の確認をするため、恐る恐る手を伸ばし触れてみた。……暖かい。 どうやら死んでいるということはなさそうだった。 ルイズがほっと胸をなでおろし、ため息をついた瞬間、その動物がムクリと起き上がった。 「うう……」 ルイズはビクッと体を反応させ、思わず後ずさりする。 起き上がった動物は、自分の身に何が起こったのか理解出来てない様子で、辺りをキョロキョロと見回している。 「や、やったわ…… 成功よ! ついに成功した! ついにやりました、ミスタ・コルベール!」 ルイズはあまりの嬉しさにカエルのようにピョンピョンと飛び跳ねた。 召喚したのは、人間のような謎の狐だが、自分の使い魔であることには変わりない。 いや、"人間のような謎の狐"なんてそうそう出会えるものではない。 もしかしたら自分は物凄い才能の持ち主なんじゃないかと思えるほどだ。 「なあ……あれって成功なのか?」 「絶対変だよな……あれ」 あれと言われた動物は、辺りをキョロキョロと見回したり、 自分の頬を抓ったり、自分の顔についてる奇妙なアクセサリをいじったりしていた。 そんな奇妙な動物の様子を興味深そうに見ながら、ミスタ・コルベールと呼ばれた男が呟いた。 「ふむ……これは珍しい。人間のような格好をした狐とは実に興味深い……」 「は、はい! きっと凄い使い魔となるに違いありません!」 すっかり興奮しきった様子でルイズが答える。 そんなルイズに、多少気圧されながらも、コルベールは話を続けた。 「ミス・ヴァリエール、興奮するのは後にして、早く契約をしたまえ。次の授業まで時間がないんだ」 「あ……。す、すみません……」 ルイズは狐人間に近づき、スッと顔を近づける。 「悪いけど、ちょっとの間だけじっとしててね」 「……!?」 狐人間はルイズに顔を掴まれ驚いたような表情をしている。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 すっと杖を狐人間の額に置き、そのまま唇を重ねた。 「終わりました」 ルイズにキスをされた狐人間はしばらく放心しているらしく、ピクリとも動かなくなった。 自分の体が妙に熱くなっているのを感じていたが、そんなものが気にならないくらい意識が飛んでいた。 なぜなら、この狐人間は宇宙空間に漂い、強大な敵に向かって戦闘機を走らせているからだ。無論妄想であるが。 「ふむ……珍しいルーンだな」 コルベールは魂が抜けている狐人間の左手の甲を見ながら呟いた。 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 コルベールはきびすを返すと、中に浮いた。 他の生徒達も中に浮き、それぞれ教室に向かって飛んでいく。 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「『レビテーション』がまともに使えないんだからな!」 「使い魔もまともじゃねえしな!はーっはっは!」 いつもなら罵倒を浴びせてくる生徒達を睨み付けるルイズだが、今回は違った。 なぜなら、自分の目の前に最高の使い魔が現れたからだ。 それに比べたら、幼稚な罵倒や、見る目が無いバカの戯言などまったく気にならなかった。 「ねえ、いつまで硬直してるのよ? あんたは私の使い魔なんだから早く私について来なさい」 そういって狐人間が着ていた服を掴もうとした瞬間だった。 「い、い、い、い、いきなり何をするだあーっ!!」 狐人間が思いっきり叫んだ。 思わず台詞をかんでしまったことを恥じる。 しかし、この狐人間にとってもっと恥じるべきことが先ほど発生した。 台詞をかんだことよりも、そっちの方が遥かに重大であった。 「……へ?」 「"へ?"じゃない! キミには恥じらいというものが無いのか!」 「あんた、喋れるの……?」 「……? 何を言ってるんだ、当たり前じゃないか」 狐人間がしゃべった。いや、狐"人間"なのだからしゃべって当たり前なのかもしれない。 しかし、この狐人間が喋るなんて毛ほども想像していなかったルイズは、驚きと同時に深い喜びを感じた。 「す、すごい! すごいわ! ねぇねぇあんた一体何者なの? 人間じゃないんでしょ? でも、狐でもないんでしょ? 一体何なの? どんな生物なの? 名前は何? どこから来たの? 歳はいくつ? 性別は雄……じゃなくて男……どっちでもいいわ!」 凄い勢いで質問攻めしてくるルイズに、狐人間は後頭部に大きな汗を流す。 そして、とりあえずルイズを落ち着かせることにする。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。 オレだって質問したいことは山ほどあるんだ。 とりあえず順番にお互いのことを話していくってことでどうだい?」 狐人間の提案に、ルイズはなるほどといった表情で頷いた。 「そうね、それがいいわ。じゃあまず名前から聞くわ。ていうかあんた名前とかあるの?」 狐人間はむっとした表情で答える。 「あるに決まってるじゃないか、失礼な子だな……。オレの名前はフォックス・マクラウドだ。 雇われ遊撃隊、スターフォックスのリーダーを務めている。よろしくな」 フォックスと名乗った男は握手を求め手を差し出す。 「雇われ遊撃隊……? ナニそれ? ……ま、いいわ。フォックスって呼べばいい?」 「ああ、そう呼んでくれると助かるよ。オレの仲間も皆そう呼んでいるからね」 「そう。私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 ルイズが言い終えると、フォックスは頭に?マークを浮かべ、しばし考え込む。 「……それ、キミの名前かい?」 「当たり前でしょ」 「……な、なんだかずいぶんと長い名前だな……えーとルイズ・フランスソース……?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!!」 「……? ……そうか、よくわかった! よろしく頼む、ルイズ」 「あんた絶対分かってないでしょ……」 ルイズはあきれ返ったような表情でフォックスを見た。 さっきの最高の使い魔を手に入れたという表情はどこへやら。 ひょっとして自分はとんでもないボンクラを呼び出してしまったのではないかとさえ感じている。 「ところで、先に一つ言っておくことがあるわ」 「……なんだ?」 ルイズはフォックスが差し出している手をはたく。 「な、何をするんだ!」 「あのね、今日から私はあんたのご主人様なの。わかる? 握手するつもりなんだろうけど、ご主人様に軽々しく握手するなんて使い魔としてどうなのって感じでしょ?」 フォックスは自分が何を言われているか理解できてない表情で首を傾げる。 「あー、もう! つまり、あんたは私の部下ってこと! だから私と立場が同じと思っちゃだめなの! わかったら、"ハイッ!"って大きな声で返事をしなさい! これは私の最初の命令よ!」 フォックスは今となっては誰にも通じない通信機に向かって呟いた。 「コイツ何言ってんだ?」 その声はルイズにも聞こえ、ルイズは顔を振るわせながら両手を挙げる。 「あんた私に喧嘩売ってるの!? とにかくあんたは今日から私の使い魔なの! 分かったわね!」 「……言っている意味がさっぱりわからない。スリッピー、この子が言っていることを分析してくれ……」 今やそばにいない仲間に助けを求め、フォックスは頭を抱えた。 しかし、フォックスの苦悩はまだ始まったばかりなのであった。 前ページ次ページ雇われた使い魔